昔から食されてきた大衆魚を紹介します。
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大衆魚 カマス

 カマスにはアオカマスとアカカマスとあって、この二種がわれわれの食卓にのばるカマスである。魚学者はヤマトカマスという品種をもう一つ加えているが、私はまだ食べたことがない。
 カマスは夏に多くとれる魚であり、夏を旬として味がのるという説がはっきりしていながら、一方では「カマスがうまくなるのは初冬のころからである」という事実をいかに感じるであろう。
 これは、アオカマスは、夏を旬とする魚であり、アカカマスは冬を旬とする魚なのである。この両者をごっちゃにしたところから、旬の昧の混乱が生じたのである。

アカカマス アオカマス

 アオカマスとアカカマスの相違点は、素人が一見しただけではわからない。なぜならばアオとかアカとかいう、色彩的な名称にとらわれるからである。伊豆地方では、アオカマスをミズカマス、アカカマスをアブラカマスと呼んでいるが、これは見分け方からいっても、味の区分からいっても、まことに適切な呼び名である。

 両者をくらべると、アカカマスの方が体形はずんぐりして頭が小さく見える。そしてアオカマスよりいくぶん黄色を帯び、尾ヒレはとくに黄がかっている。鱗はアカカマスの方が粗く、やや大きい。背から開いて肉をくらべると、アオカマスは名の通り、青みがかり水っぽく、アカカマスの肉には赤みがさして、脂肪がよくのっている。
 夏場に出まわるアオカマスが、せいぜい塩焼かフライていどにしか利用されないのは、肉が水っぽくて、他の料理にむかないからである。もちろん干魚にも作るが、アカカマスの味にはかなわない。俗に「霜降りカマス」といって、初冬の味をはめるのは、そのころに、脂ののったアカカマスが出まわってくるからである。

 十一月ごろ、熱海や伊東の干魚店をのぞくと、アオカマスとアカカマスの二種類が並べてある。食べくらべると味の差がはっきりわかるが、値段もアカマスの方がはるかに高い。なお干魚に作る場合、アジなどよりは水分の多い魚であるから、干しがあまいと、味不足のものができる。
 アジの干魚は腹開きで、カマスの干魚は背開きであるということをご存知だろうか。干魚の姿というものは、それぞれに面白い特徴があって、絵画的であり詩的である。ものの風味というものは、姿から生まれる味が大切であって、茶懐石のように骨までとって出されたのでは、親切すぎて本来のよさはわからない。
 ひらきの干魚を焼くには、皮目から火にかけ、身の方で焼きあげ、キツネ色の焼き目がつくぐらいが頃合いである。身の方を表にして皿に盛り、熱いうちに食べると骨ばなれがよいし、とてもうまい。

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